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伊藤博文の憲法義解〜第六十三条〜

 第六十三条になります。

 

第六十三条 現行の租税は更に法律を以て之を改めさる限は旧に依り之を徴収す
(現行の租税は、法律によって改めない限りは、従来どおりに徴収する)

 

口語訳
 前条己に新たに課するの租税は必ず法律を以て之を定めるべきことを保明したり。而して、本条は現行の租税は嗣後更に新定の法律を以て之を改正するの事あらざる限りは総て従前の旧制及び旧税率に依遵して之を徴収すべきことを定める。蓋し、国家は其の必要の経費に供する為に一定の歳入あるを要する。故に、現行租税に属する国家の歳入は憲法に由って移動せざるのみならず憲法は更に明文を以て之を確定したり。
 (附記〉之を欧州各国に参考するに、毎一年に徴税の全部を議会の議に付するは其の実、多くは無用の形式たるに拘らず一般に理論の貴重する所となり、或国の憲法は租税議決の効力は一年に限り、明文を以て之を更新するに非ざれは一年以外に存立せざることを掲げたり。今其の由って来る所を推究するに、其の一は欧州中古、各国の君家は家事を以て国務と相混し、家産を以て国費に充て、私邑(しゆう)を封殖して其の粗入を取り以て文武の需要に供給したりしに其の後常備兵の設、軍需巨大なると及び宮室園囿の費とに因り内庫欠乏するに至り、国中の豪族を召集し、其の貢献を徴し以て歳費を補給するの方法を取りたり。此れ及び欧州各国に於ける租税の起源は実に人民の貢献寄附たるに過ぎず〈瓦敦堡(ウィッテンベルク〉憲法第百九条に王室財産の収入にして足らざるときは、租税を徴収して国費を支給すべしと云えるは其の一証なり)故に、国民は王家飽くこと無きの徴求を防制する為に政府をして其の必要を証明し、以て国民の承諾を経るを要せしめ、承諾なければ租税なしと謂えるの約束を以て国憲の大則とするに至れり。此れ歴史上の沿革より来る者なり。其の二は主権在民の主義に拠り国民は全部の租税に対し、専ら自由承諾の権を有し、国民にして租税を承諾せざるときは政府は其の存立を失うを以て自然の結果とすべしと謂える、極端の論より来る者なり。抑々、此の歴史上の遺伝と架空の理論とは両々抱合して以て各国の憲法の上に強大なる勢力を有し、牢固にして破るべからざるに至れる拘らず、顧みて其の実際如何と問うに至っては、英国に在りては地租・関税・物産税・印紙税は常久に之を徴収し固定資金に払い込む者、凡そ歳入の全部七分の六に居る。(ダイシー氏に拠る千八百八十四年の統計に拠るに歳入全部八千七百二十万五千百八十四磅(ポンド)にして、其の千四百万磅は毎年議決に依り徴収する者とし、其の七千三百万磅余りは経常法に依り徴収する)此れ乃ち、昔日の因襲と及び法律の効力に依り経常不動の歳入とし、毎年に議に付することを要せざる者なり。普国は憲法第百九条に依り現税は旧に依るの条規を実行したり。彼の理論の巣窟たる所の仏国に於いても其の著述者の言に拠るに毎年租税を議するの原則は依違(いい)の間に之を施行するに過ぎず。(ボーリウ氏、財政学第三版第二巻七十五頁及び七十六頁)而して、其の殊に毎年討議して以て税率を定める所の直税の如きも亦、既に其の不便を論ずる者あり。蓋し、之を立国の原理に求めるに国家の成立は永久にして仮設の者に非ず。故に、国家其の永久の存立を保つ為の経費の対局は毎一年に移動を為すべきに非ず。而して、何人も及び何らの機関も必要経費の源を杜塞して以て国家の成立を?害するの権利なかるべきなり。彼の欧州各国の中古の制度の如きは国家常存の資源は王室の財産に在って租税に在らず。故に、人民は随意に納税の諾否を毎一年に限ることを得べきも、近世国家の原理漸く論定を得るに至っては国家の経費は租税の正供に資るべく、而して、殊に国家の存立に必要なる経常税の徴収は専ら国憲に拠る者にして人民の随意なる献饋(けんき)に因る者に非ざること既に疑を容れるべきの余地あることなきなり。
 我が国、上古より国家の経費は之を租税に取り、中古三税租・庸・調の法を定め、国民をして均しく納税の義務あらしめ正供の外に徴求の路を開くことを仮らず、現在各種税法、皆常経ありて毎年移動の方法に由る者あることなし。今憲法に於いて現行税を定めて経常税となし。其の将来に変更あるを除く外、総て旧に依り徴収せしめるは之を国体に原つけ之を理勢に酌み紛更を容れざる者なり。

 

現代語訳
 前条において既に、新たに課する租税は、必ず法律によって定めるべきことを明記している。そして、本条の現行の租税は、さらに新たに定めた法律によって改正することがない限りは、すべて従来の旧制及び旧税率によって徴収すべきことを定める。思うに、国家は必要な経費を供するために、一定の歳入を必要とする。ゆえに、現行の租税に基づく国家の歳入は、憲法によって変更されないのみならず、憲法はさらに明文によって確定した。
 (附記)これを欧州各国を参考にすると、毎年一年に徴税のすべてを議会の審議に付するのは、大体は無用の形式であるにもかかわらず、一般に理論的に尊重される所であり、ある国の憲法は、租税議決の効力は一年に限り、明文によって更新するものでなければ、一年を超えて存立しないことを掲げている。今、その理由を推察すると、一つは、古い時代の欧州各国の君主は、家事を国務と混同させ、家の財産を国費に当て、私有地を殖やして、そこから収入を取り、文官、武官の需要に供給していたが、その後、常備軍の設置、軍需が巨大になったことと宮廷の費用により、財源が欠乏するに至ったため、国内の豪族を召集し、その貢物を取り立てて、歳費を補給する方法を取った。これは欧州各国における租税の起源は、実際に人民の貢物や寄付に過ぎない(ウィッテンベルグ憲法第百九条に「王室財産の収入で足らない時は、租税を徴収して国費を支給すべし」というのは、その証拠の一つである)。ゆえに国民は王家の飽くなき徴税を防ぐために、政府にその必要を証明し、国民の承諾を経ることを必要とし、「承諾がなければ租税なし」という約束をもって憲法の大原則とするに至った。これは、歴史上の沿革より来たものである。二つ目は、主権在民の主義により、国民はすべての租税に対し、専ら自由承諾権を有し、国民で租税を承諾しない時は、政府はその存立を失うのを自然の結果とする、極論から来たものである。そもそも、この歴史的な遺産と架空の理論とは、両方合わせて各国の憲法に強大な影響力をもち、牢固で破る事が出来なくなるに至ったにもかかわらず、顧みるとその実情はどうかと問うてみると、イギリスおいては地租、関税、物産税、印紙税は恒久的に徴収し、毎年の固定に払い込む額は、歳入の七分の六になる(ダイシー氏による千八百八十四年の統計によると歳入全額は八千七百二十万五千百八十四ポンドであり、そのうち千四百万ポンドは毎年議決により徴収するものとし、その七千参百万ポンド余りは経常法により徴収する)。これはつまり、昔日の因襲と法律の効力により、経常不動の歳入として、毎年審議に付する必要はないものである。プロイセンは憲法第百九条により、現行の租税は従来どおりとする条規を実行している。かの理論の巣窟であるフランスにおいても、毎年租税を審議するという原則は、曖昧に施行するのに過ぎない(ボーリウ氏の財政学第三版第二巻七十五ページから七十六ページ)。そうして、毎年討議して税率を定めるところの直税についてもまた、既に不便を論じている者もいる。思うに、これを立国の原理に求めると、国家の成立は永久であり、仮設のものではない。ゆえに、国家の永久の存立を保つための経費の全体は、一年ごとに動かすべきではない。そして、誰も、どんな機関も、必要経費の財源を閉ざして、国家の成立を妨げる権利はない。彼の欧州各国の古い制度においては、国家常存の資源は王室の財産にあって、租税ではない。ゆえに、人民は納税の承諾を一年ごとに限って決める事が出来るが、近世国家の原理がようやく定まるに至って、国家の経費は租税を資源とすべきであり、そしてとくに国家の存立に必要な経常税の徴収は、専ら国権によるものであり、人民の意のままの献上によるものでない事は、既に疑いの余地はないのである。
 我が国は上古より国家の経費は、租税によって取り中古に三税(租・庸・調)の法を定め、国民に対して等しく納税の義務を課し、正規の租税のほかに徴収する道を開くことはなかった。現在の各種の税法は皆一定の額があり、毎年変動する方法によることはない。今、憲法において現行の租税を定めて経常税とし、将来に変更がある場合を除くほかは、すべて従来どおり徴収させるのは、国体に基づき、道理を斟酌し、むやみに改められるものではないのである。

 

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