日考塾〜憲法とは即ち歴史である

このエントリーをはてなブックマークに追加

極東国際軍事裁判所条例

 一九四六年一月一九日
 改正同年四月二六日

 

   第一章 裁判所の構成

 

(裁判所の設置)
第一条 極東に於ける重大戦争犯罪人の公正且迅速なる審理及び処罰の為め、茲に極東国際軍事裁判所を設置す。
 裁判所の常設地は東京とす。

 

(裁判官)
第二条 本裁判所は、降伏文書の署名国並に印度、比律賓国により申出でられたる人名中より、聯合国最高司令官の任命する六人以上一一人以内の裁判官を以て構成す。

 

(上級職員及び書記課)
第三条
 イ 裁判長 聯合国軍最高司令官は、裁判官中の一人を裁判長に任命す。
 ロ 書記課
  一 裁判所書記課は、聯合国軍最高司令官の任命に係る書記長の外、必要員数の副書記長、書記、通事其の他の職員を以て構成す。
  二 書記長は、書記課の事務を編成し、之を指揮す。
  三 書記課は、本裁判所にあてられたる一切の文書を受理し、裁判所の記録を保管し、裁判所及び裁判官に対し必要なる書記事務を提供し、其の他裁判所の指示する職務を遂行す。

 

(開廷及び定足数、投票及び欠席)
第四条
 イ 開廷及定足数 裁判官六人が出廷せる時、右裁判官は、裁判所の正式開廷を宣することを得。全裁判官の過半数の出席を以て定足数の成立要件とす。
 ロ 投票 有罪の認定及び刑の量定其の他本裁判所の為す一切の決定並に判決は、出席裁判官の投票の過半数を以て決す。
 賛否同数なる場合に於ては、裁判長の投票を以て之を決す。
 ハ 欠席 裁判官にして万一欠席することあるも、爾後出席し得るに至りたる場合に於ては、其の後の凡ての審理に参加すべきものとす。
 但、公開の法廷に於て其の欠席中行はれたる審理に通暁せざるの理由により、自己の無資格を宣言したる場合に於ては、此の限りに非ず。

 

   第二章 管轄及び一般規定

 

(人並に犯罪に関する管轄)
第五条 本裁判所は、平和に対する罪を包含せる犯罪に付個人として又は団体構成員として訴追せられたる極東戦争犯罪人を審理し、処罰するの権限を有す。
左に掲ぐる一又は数個の行為は、個人責任あるものとし、本裁判所の管轄に属する犯罪とす。
 イ 平和に対する罪 即ち、宣戦を布告せる又は布告せざる侵略戦争、若は国際法、条約、協定又は保証に違反せる戦争の計画、準備、開始、又は実行、若は右諸行為の何れかを達成する為の共通の計画又は共同謀議への参加。
 ロ 通例の戦争犯罪 即ち、戦争法規又は戦争慣例の違反。
 ハ 人道に対する罪 即ち、戦前又は戦時中為されたる殺戮、殲滅、奴隷的虐使、追放其の他の非人道的行為、若は政治的又は人種的理由に基く迫害行為であつて犯行地の国内法違反たると否とを問はず本裁判所の管轄に属する犯罪の遂行として又は之に関聯して為されたるもの。
 上記犯罪の何れかを犯さんとする共通の計画又は共同謀議の立案又は実行に参加せる指導者、組織者、教唆者及び共犯者は、斯かる計画の遂行上為されたる一切の行為に付、其の何人に依りて為されたるとを問はず、責任を有す。

 

(被告人の責任)
第六条 何時たるとを問はず被告人が保有せる公務上の地位、若は被告人が自己の政府又は上司の命令に従ひ行動せる事実は、何れも夫れ自体当該被告人をして其の間擬せられたる犯罪に対する責任を免れしむるに足らざるものとす。但、斯かる事情は、本裁判所に於て正義の要求上必要ありと認むる場合に於ては、刑の軽減の為め考慮することを得。

 

(手続規定)
第七条 本裁判所は、本条例の基本規定に準拠し手続規定を制定し、又は之を修正することを得。

 

(検察官)
第八条
 イ 主席検察官 聯合国軍最高司令官の任命に係る主席検察官は、本裁判所の管轄に属する戦争犯罪人に対する被疑事実の調査及び訴追を為すの職責を有するものとし、且右最高司令官に対し適当なる法律上の助力を為すものとす。
 ロ 参与検察官 日本と戦争状態に在りし各連合国は、主席検察官を輔佐する為め、参与検察官一人を任命することを得。

 

   第三章 被告人に対する公正なる審理

 

(公正なる審理の為めの手続)
第九条 被告人に対する公正なる審理を確保する為め、左記手続を遵守すべきものとす。
 イ 起訴状 起訴状には平易、簡単且適切に各起訴事実の記載を為すべきものとす。各被告人は、防禦の為め十分なる時期に於て、被告人が諒解し得る国語を以て記載せられたる起訴状及び其の修正文並に本条例の各写を交付せらるべきものとす。
 ロ 用語 審理並に之に関聯せる手続は英語及び被告人の国語を以て行はるべきものとす。文書其の他の書類の翻訳文は、必要なる場合請求に応じ提供せらるべきものとす。
 ハ 被告人の為めの弁護人 各被告人は其の選択にかかる弁護人に依り代理せらるる権利を有す。但、本裁判所は、何時にても右弁護人を否認することを得。被告人は、本裁判所の書記長に其の弁護人の氏名を届出づべし。若し被告人にして弁護人に依り代理せらるることなく、且公開の法廷に於て弁護人の任命を要求せし場合に於て本裁判所は、右被告人の為めに弁護人を選任すべし。斯かる要求なき場合に於ても、本裁判所は、若し斯かる任命が公正なる裁判を行ふに付き必要なりと認むるときは、被告人の為めに弁護人を選任することを得。
 ニ 防禦の為めの証拠 被告人は、自ら又は弁護人に依り(但両者に依るを得ず)凡ての人証を訊問する権利を含め防禦を為すの権利を有す。但、当裁判所が定むるところの適当なる制限に従ふものとす。
 ホ 防禦の為めの証拠の顕出 被告人は、本裁判所に対し書面を以て人証又は文書の顕出を申請することを得。右申請書には人証又は文書の所在すと思料せらるる場所を記載すべし。尚右申請書には人証又は文書に依り立証せんとする事実並に斯かる事実と防禦との関連性を記載すべし。
 本裁判所が右申請を許可したる場合に於ては、本裁判所は、右証拠の顕出を得るに付情況上必要とする助力を与へらるべきものとす。

 

(審理前に於ける申請又は動議)
第十条 審理の開始に先立ち本裁判所に対して為さるる動議、申請其の他の請求は、総て書面を以て為すべきものとし、且本裁判所の決定を得る為め之を本裁判所書記長に提出すべきものとす。

 

   第四章 裁判所の権限及び審理の執行

 

(権限)
第十一条 本裁判所は左記の権限を有す。
 イ 人証を召喚し、其の出廷及び証言を命じ、且之を訊問すること。
 ロ 各被告人を訊問し、且被告人が訊問に対する答弁を拒否したる場合に於て、右拒否に関し訴訟関係人の論評を許可すること。
 ハ 文書其の他の証拠資料の提出を命ずること。
 ニ 各人証に対し宣誓、誓言、又は其の本国の慣習に依る宣言を為すべきことを命じ、且宣誓を執行すること。
 ホ 本裁判所の指示する事務を遂行する為めの職員を任命すること、これには嘱託による証拠入手の権限を含む。

 

(審理の執行)
第十二条 本裁判所は左記の各項を遵守すべし。
 イ 審理を起訴事実に付生じたる争点の迅速なる取調に厳格に限定すること。
 ロ 不当に審理を遅延せしむるが如き行為を防止する為め厳重なる手段を執り、且其の如何なる種類たるとを問はず、起訴事実に関聯なき争点及び陳述を排除すること。
 ハ 審理に於ける秩序の維持を図り、法廷に於ける不服従行為に付之を即決し、且爾後の審理の全部又は一部に付被告人又は其の弁護人の退廷を命ずる等適当なる制裁を課すること。
 但、之が為め起訴事実の判定に付偏頗の取扱を為すべからざるものとす。
 ニ 被告人に付審理に応ずべき精神的及び肉体的能力の有無を決定すること。

 

(証拠)
第十三条
 イ 証拠能力 本裁判所は、証拠に関する技術的法則に拘束せらるることなし。本裁判所は、迅速且適宜の手続を最大限度に採用且適用すべく、本裁判所に於て証明力ありと認むる限り如何なる証拠をも採用するものとす。被告人の表示したる承認または陳述は、総て証拠として採用することを得。
 ロ 証拠の関聯性 本裁判所は、証拠の関聯性の有無を判定する為め、証拠の提出前証拠の性質に付説明を徴することを得るものとす。
 ハ 採用し得べき具体的証拠の例示 左に掲ぐるものは、何れも証拠として採用し得るものとす。
 但前記の一般原則の範囲を何等制限するものにあらず。
  一 機密上の種別如何に拘らず、且発行又は署名に関する証明の有無を問はず、或政府の軍隊に属する将校、官庁、機関、構成員の発行又は署名に係るものと本裁判所に於て認めらるる文書。
  二 国際赤十字社又は其の社員、医師又は医務従事者、調査員又は情報官、其の他当該報告書に記載せられたる事項を直接知得せりと本裁判所に認めらるる者の署名又は発行に係るものと本裁判所に於て認めらるる報告書。
  三 宣誓口供書、供述書、其の他署名ある陳述書。
  四 本裁判所に於て起訴事実に関係ある資料を包含すと認めらるる日記、書状若は宣誓又は非宣誓陳述を含む其の他の文書。
  五 原本を即時提出し得ざる場合に於ては、文書の写、其の他原本の内容を第二次的に証明する証拠物。
 ニ 裁判所に顕著なる事項 本裁判所は、公知の事実、又は或国家の公式の文書及び報告書の真実性若は或連合国の軍事機関又は其の他の機関の作成に係る調書、記録及び判定書の真実性に付ては其の立証を要求せざるものとす。
 ホ 記録、証拠物及び文書 調書の正本及び裁判所に提出せられたる証拠物及び文書は、本裁判所の書記長に交付せられ、法廷記録の一部を構成するものとす。

 

(裁判の場所)
第十四条 最初の裁判は東京に於て之を行ふべく、爾後行はるることあるべき裁判は、本裁判所の決定する場所に於て之を行ふものとす。

 

(裁判手続の進行)
第十五条 本裁判に於ける手続は左記の過程を経べきものとす。
 イ 起訴状は、法廷に於て朗読せらるべし。但、被告人全員が其の省略に同意したる場合は此の限にあらず。
 ロ 裁判所は、各被告人に対し「有罪」又は「無罪」の何れを主張するやを質すべし。
 ハ 検察官並に各被告人(代理せられ居る場合は弁護人に限り)は簡単なる冒頭陳述を為すことを得。
 ニ 検察官及び弁護人は証拠の提出を為すことを得べく、裁判所は、当該証拠の採否に付決定すべし。
 ホ 検察官並に各被告人(代理せられ居る場合は弁護人に限り)は、各人証及び証言を為す各被告人を迅問することを得。
 ヘ 被告人(代理せられ居る場合は弁護人に限り)は裁判所に対し意見を陳述することを得。
 ト 検察官は、裁判所に対し意見を陳述することを得。
 チ 裁判所は、有罪無罪の判決を下し、刑を宣告す。

 

   第五章 有罪無罪の判決及び刑の宣告
(刑罰)
第十六条 本裁判所は、有罪の認定を為したる場合に於ては、被告人に対し死刑又は其の他本裁判所が公正と認むる刑罰を課する権限を有す。

 

(判定及び審査)
第十七条 判決は、公開の法廷に於て宣告せらるべく、且つ之に判決理由を附すべし。裁判の記録は、速かに聯合国軍最高司令官に対し審査を受くる為め送付せらるべし。宣告刑は、聯合国軍最高司令官の指令に従ひ執行せらるべく、聯合国軍最高司令官は、何時にても宣告刑に付、之を軽減し、又は刑を加重せざる限り其の他の変更を加ふることを得。
  マツクアーサー元師の命令に依り

 

(米陸軍)参謀団員・陸軍少将
  参謀長 リチヤード・J・マーシヤル

 

 正書
(米陸軍)軍務局員・陸軍代将
  軍副官部主任 ビー・M・フイツチ

 

この記事はお役に立ちましたでしょうか。
この記事が誰かの役に立ちそうだと感じて頂けましたら、下のボタンから共有をお願い致します。


日考塾 所信 日考塾概要 お問い合わせ 参考文献