日本国憲法第9条の改正について 石破茂私案

 

平成30年2月23日
衆議院議員 石破 茂

 

自民党 日本国憲法改正草案(平成24年)
第九条 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動としての戦争を放棄し、武力による威嚇及び武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては用いない。
2 前項の規定は、自衛権の発動を妨げるものではない。
第九条の二 我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全を確保するため、内閣総理大臣を最高指揮官とする国防軍を保持する。
2 国防軍は、前項の規定による任務を遂行する際は、法律の定めるところにより、国会の承認その他の統制に服する。
3 国防軍は、第一項に規定する任務を遂行するための活動のほか、法律の定めるところにより、国際社会の平和と安全を確保するために国際的に協調して行われる活動及び公の秩序を維持し、又は国民の生命若しくは自由を守るための活動を行うことができる。
4 前二項に定めるもののほか、国防軍の組織、統制及び機密の保持に関する事項は、法律で定める。
5 国防軍に属する軍人その他の公務員がその職務の実施に伴う罪又は国防軍の機密に関する罪を犯した場合の裁判を行うため、法律の定めるところにより、国防軍に審判所を置く。この場合においては、被告人が裁判所へ上訴する権利は、保障されなければならない。
第九条の三 国は、主権と独立を守るため、国民と協力して、領土、領海及び領空を保全し、その資源を確保しなければならない。

 

 憲法はその国の法体系の頂点にある最高法規であり、国家と国民との明示的な「きまり」である。我が国が民主主義国家であり、主権者が国民である以上、この明示的な「きまり」の持つ意味が国民にわからないものであったり、解釈を巡って意見が分かれるようでは、憲法として失格である。
 その意味で、一読しただけでは理解しがたい現行の第9条は、そもそも全面的に書き換える必要がある。

 

 制定当初は、この第9条は必ずしも「理解しがたい」ものではなかった。制定時の意図はまさしく字義通り、戦車も軍艦も戦闘機も一切持たず、すべては話し合いによって解決する、というものだったからである。憲法前文において「日本国民は平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した」のであり、それを受ける形で具現化したのが憲法第9条の「戦力不保持・交戦権否認」であることは政府答弁書からも明らかである。
 しかし、占領の終了と日本国の独立・主権回復、国際環境の変化により、この「個別的自衛権も行使せず、全くの非武装を貫く」という概念は維持することが不可能となった。
 本来、この時に我々は国民的議論を経て、当時の時勢に適合し、誰にでも理解できるものとして憲法を改正すべきであったが、それはなされることがなく、
1自衛権と国家固有の権利であるがゆえに憲法以前のものである。
2ゆえに、外部からの武力攻撃によって国民の「平和的生存権」(憲法前文)や「幸福追求権」(憲法第13条)などが侵害された場合には、実力を行使してこれを排除できる。
3但し、憲法第9条があるがゆえに、装備もその際の実力行使の態様も必要最小限度に留まるべきである。
との「解釈」を展開し、結果として我が国の実態とはかけ離れた憲法をもち続けることになった。
 それから半世紀以上。あれこれ解釈を加え、委曲を尽くして現状に合わせようとしてきたことは明らかな限界があった。
「必要最小限度内の実力しか保持しないのだから自衛隊は『戦力』ではない」
「『戦力』ではないから自衛隊は『陸海空軍』ではない」
「我が国も普通の交戦国がやることと大体似たようなことを国内で行うことは可能であるが、憲法で交戦権が明確に否定されているのでこれを『自衛行動圏』と称する」
「『自衛行動圏』とは、自衛権からくる制約のある交戦権である」
 等々、我々は、このような難解な論理を主権者たる国民に強いており、国の安全保障政策の根幹である日本国憲法第9条がこのような状態で、国民に真に理解される安全保障政策が構築できるはずはない。
 我が国が「必要最小限」とする防衛力が本当に抑止力を発揮するに十分なものなのかも不明であり、「それを超えるものは政治的リスクであり、防衛力はエキスパンドするものなのだ」との考えは、「基盤的防衛力整備構想」と根底において何ら変わるものではない。
 このような『解釈』が一般に理解されるとは到底思えず、外国から見れば欺瞞としか映らない。我が国における安全保障についての議論が深まらない最大の要因は、間違いなくここにある。憲法を小学校から最高学府まで学んでも、このような難解かつ不可解な議論に接すれば、空想的平和主義に陥るか、思考を停止してしまうかのどちらかになってしまうことは必定である。

 

 私自身、防衛庁長官・防衛大臣として有事法制やイラク特措法の制定、テロ対策特措法の延長などに深く関わり、「海上輸送規制法において自衛隊のとる行動は交戦権には該当しない」「イラクにおける自衛隊の活動は国際紛争の主体である国または国に準ずる組織の存在しない地域に限られる(非戦闘地域)などと、憲法との整合性を維持するために必死で答弁してきた。与えられたミッションを遂行するために当然のことではあったが、法律では何とか綺麗に説明できても、現場に与える負担を思うととても苦しい気持ちになったことをよく覚えている。
 「国家としてその主権と独立を守る組織を有する」「その行動は確立された国際法規と国際慣習法に従う」「その組織は司法・立法・行政によって統制される」という三点は国際的な常識であり、これが「国民には理解されない」と決めつける姿勢には強い違和感を覚える。「自衛隊は違憲であるという憲法学説を封じ込めることが今回の9条改正の目的であり、他は何も今と変わらない」という考えは、激変する安全保障環境から目を背けることに他ならない。
 冒頭掲げた平成24年自民党草案起草委員の一人として9条部分に携わった者として、議論の前提とすべきは24年草案だと考えているが、敢えて私案を述べれば下記の通りである。

 

改正私案
第九条 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、侵略の手段としての武力による威嚇及び武力の行使を永久に放棄することを、厳粛に宣言する。
2 我が国の独立と平和及び国民の安全と自由並びに国際社会の平和と安定を確保するため、陸海空自衛隊を保持する。
二 自衛隊は法律の定めるところにより、その予算、編成、行動等において国会の統制に服する。
三 自衛隊の最高指揮官は、内閣総理大臣とする。
四 自衛隊に属する自衛官その他の公務員がその職務の実施に伴う罪又は国家機密に関する罪を犯した場合の裁判を行うため、法律の定めるところにより、最高裁判所を終審とする審判所を置く。

 

以上

 

出典はこちら

 
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