憲法義解〜第二十八条〜

第二十八条 日本臣民は安寧秩序を妨けす及臣民たるの義務に背かさる限に於て信教の自由を有す
(日本臣民は、安寧秩序を乱さず、臣民たる義務に背かない限り、信教の自由を有する)

 

 

 

 

口語訳

中古西欧宗教の盛なる、これを内外の政事に混用し、もって流血の禍を致し、而して東方諸国は又厳法峻刑をもってこれを防禁せむと試みたりしに、四百年来信教自由の説始めて萌芽を発し、もって仏国の革命・北米の独立に至り公然の宣告を得、漸次に各国の是認するところとなり、現在各国政府は或(あるい)はその国教を存し或は社会の組織又は教育において仍一派の宗教に偏袒(へんたん)するに拘らず、法律上一般に各人に対し信教の自由を予(あた)えざるはあらず。
而して異宗の人を戮辱(りくじょく)し或は公権私権の享受に向て差別を設くるの陋習(ろうしゅう)は既に史乗過去のこととして(独逸各邦においては千八百四十八年まで仍(しきりに)猶太(ユダヤ)教徒に向て政権を予えざりし)復(また)その跡を留めざるに至れり。
これ乃(すなわ)ち信教の自由はこれを近世文明の一大美果として看ることを得べく、而して人類の尤(もっとも)至貴至重なる本心の自由と正理の伸長は、数百年間沈淪茫昧(ちんりんぼうまい)の境界を経過して、僅かに光輝を発揚するの今日に達したり。
けだし本心の自由は人の内部に存する者にして、固(もと)より国法の干渉する区域の外に在り。
而して国教をもって偏信を強うるは尤も人知自然の発達と学術競進の運歩を障害する者にして、何れの国も政治上の威権を用いてもって教門無形の信依(しんい)を制圧せむとするの権利と機能とを有せざるべし。
本条は実に維新以来取るところの針路に従い、各人無形の権利に向て濶大(かつだい、広く大きいこと)の進路を予えたるなり。

 

ただし、信仰帰依は専ら内部の心識に属すといえども、その更に外部に向いて礼拝・儀式・布教・演説及結社・集会を為すに至ては固より法律又は警察上安定秩序を維持する為の一般の制限に遵はざることを得ず。
而して何等の宗教も神明に奉事する為に法憲の外に立ち、国家に対する臣民の義務を逃るるの権利を有せず。
故に内部における信教の自由は完全にして一の制限を受けず。
而して外部における礼拝・布教の自由は法律規則に対し必要なる制限を受けざるべからず。
及臣民一般の義務に服従せざるべからず。
これ憲法の裁定するところにして政教互相関係するところの界域なり。

 

 

現代語訳

中世ヨーロッパの宗教に勢いがあった時代、内政や外交に混用することで流血が生じ、そうして東方諸国は、厳しい法と刑罰によって、防ぎ禁止することを試みたが、四百年来、信教の自由の説が初めて萌芽し、フランス革命やアメリカ独立によって公然と宣言され、しだいに各国が認めるところとなり、現在各国政府は、国教があり、社会の組織や教育において一つの宗教に肩入れすることがあるかにかかわらず、法律上一般に各人に対して信教の自由を与えていないものはない。
そうして、異なる宗教の人を恥辱したり、公権や私権の享受において差別を設ける悪習は、すでに歴史的に過去の出来事として(ドイツの各領邦においては千八百四十八年までしきりにユダヤ教徒に対して政治的権利を与えなかった)、その跡を留めないまでになった。
これすなわち、信教の自由は近代文明の一大成果と見ることができ、そうして人類のもっとも貴重で重要なものである本心の自由と、正しい道理の伸長は、数百年間の無知蒙昧の境界を経過して、わずかに光り輝いて今日に達した。
思うに、本心の自由は人の内部にあるものであり、もとより国法の干渉する範囲外にある。
そして国教を定めて信仰を強制するのは、もっとも人知の自然な発達と学術の競争や進歩の障害になるものであり、いずれの国も政治権力を用いて、宗門に対する無形の信仰を制圧する権利と機能を認めていない。
本条は、実に維新以来政府が取る方針に従い、各人の無形の権利に向けて広大な進路を与えた。

 

ただし、信仰の帰依は専ら内部の心に属するといっても、更に外部に向かって礼拝、儀式、布教、演説及び結社、集会を行うに至っては、もとより法律または警察上の安寧秩序を維持するための一般の制限を尊ばなければならない。
そして、いかなる宗教も神明に奉り仕えるために憲法や法律の外に立って、国家に対する臣民の義務を逃れる権利をもたない。
ゆえに内部における信教の自由は、完全であり一つの制限も受けない。
しかし、外部における礼拝、布教の自由は法律、規則によって必要な制限を受けなければならない。
そして臣民一般の義務に服さなければならない。
これは憲法の定めるところであり、政治と宗教が相互に関係する境界である。

 
この記事はお役に立ちましたでしょうか。
この記事が誰かの役に立ちそうだと感じて頂けましたら、下のボタンから共有をお願い致します。

    このエントリーをはてなブックマークに追加  

昭和12年学会
ページの先頭へ戻る