憲法義解〜第十条

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憲法義解〜第十条

第十条 天皇は行政各部の官制及文武官の俸給を定め及文武官を任免す但し此の憲法又は他の法律に特例を掲けたるものは各々其の条項に依る
(天皇は、行政の各組織の制度や文武官の給与を定め、文武官を任免する。ただし、この憲法、または他の法律で特例を既定した場合は、その条項に従う)

 

 

 

 

口語訳

恭(つつしみ)て按ずるに、至尊は建国の必要により、行政各部の官局を設置し、その適当なる組織及職権を定め、文武の材能(さいのう)を任用し、及これを罷免するの大権を執る。
これを上古に考ふるに、神武天皇大業を定め、国造(くにのみやつこ)・県主(あがたぬし)を置く。
これを立官の始めて史乗に見ゆる者とす。孝徳天皇八省を置き、職官大に備はる。
維新の初、大宝の旧により増損する所あり。その後屡々(しばしば)更張を経、官制及俸給の制を定めらる。而して大臣は天皇の親く任免する所たり。
勅任以下高等官は大臣の上奏に由り裁可して之を任免す。
均く皆至尊の大命に出(いで)ざるはあらず。
ただし、裁判所及会計検査院の構成は勅令によらずして法律をもってこれを定め、裁判官の罷免は裁判によりこれを行ふは、これ憲法及法律の掲ぐる所の特例によるものなり。
官を分ち職を設くること既に王者の大権に属するときは俸禄を給与すること亦(また)従てこれに附属すべきなり。
(附記)これを独逸の史乗に考(ふ)るに、昔時、官吏の任免は専ら君主及長官の随意に任せたりしに、第十七世紀に及て帝国大裁判所の裁判官は裁判によらざればその官を免ずること能はずとなし、この原則を帝国参事官にも適用したり。
その後第十八世紀に至りて行政官吏の任職も亦その確定権利に属するの説行はれ、往々各国法律の採用する所となりたりしに、第十九世紀の初に及て、官吏は俸給に就き確定の権利を有すといえども、その職に就きこれを有することなし、故に俸給または恩給を与へてその職を免ずるは行政上の処分をもって足れりとすとの主義を論ずる者あり。
この論理は首に巴威倫(バイエルン)の官吏の職制法の掲ぐる所となり、政府は懲戒裁判によらずして行政上の便宜により、官吏の官階及官階俸を存してその職務及職務俸及職服を解くことを得せしめたり(千八百十八年法)。
独り英国は独逸各国と固よりその例を殊にし、或る一部の官吏を除く外は、君主は随意に文武官を任免するの特権あるものとすること今仍(なお)古の如きなり。

 

 

現代語訳

恭んで考えるには、至尊たる天皇は建国の必要により、行政各部の官局を設置して、その適当な組織及び職権を定めて、文武の人材を任用したり罷免したりする大権を行使する。
これを始まりの歴史から考えてみると、神武天皇が大いなる事業を定めて国造(くにのみやつこ)、県主(あがたむし)を置く。
これが官を定めた初めとして歴史に見えるものである。
孝徳天皇が八省を置き、職官が大いに整備された。
明治維新の初めに、大宝律令の旧制度から職官を増減するところがあった。
その後、しばしば増設され、それを経て、官制と俸給の制度を定められた。
そうして、大臣は天皇自らが任免するところである。
勅任以下の高等官は、大臣の上奏により、裁可して任免する。
等しくみな至尊たる天皇の大命より出ないものはない。
ただし、裁判所及び会計検査院の構成は、勅令によらず法律で定め、
裁判官の罷免は裁判によって行うのは、憲法及び法律の掲げる特例によるものである。
官を分割し役職を設けることが天皇大権に属するため、俸禄を給与することも、また附属すべきものである。
(附記)これをドイツの歴史から考えると、かつて官吏の任免はもっぱら君主及び長官の随意に任せていたが、十七世紀になって帝国大裁判所の裁判官は、裁判によらなければ罷免することができないとして、この原則を帝国参事官にも適用した。
その後、十八世紀に至って行政官吏の任職もまた、裁判による確定権利に属するという説が行われ、往々にして各国の法律に採用するところとなったが、十九世紀初め、官吏は俸給について確定権利があるといえども、任職についてはない、ゆえに俸給または恩給を与えて、その職を罷免するのは、行政上の処分で十分という説を論じる者がいる。
この論理は、初めバイエルンの官吏の職制法に掲げられるところになり、政府は懲戒裁判によらずに行政上の便宜によって、官吏の階級及び階級に相当する俸給を残し、その職務、職務に相当する俸給及び服務を解除することができるようになった(1818年法)。
ただイギリスだけは、ドイツ領邦国とは元来異なっており、ある一部の官吏を除いて、君主は随意に文武官を任免する特権があるものとしているのは、今も昔と変わらない。

 
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