憲法義解〜第六十四条

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憲法義解〜第六十四条

第六十四条 国家の歳出歳入は毎年予算を以て帝国議会の協賛を経へし
 予算の款項に超過し又は予算の外に生したる支出あるときは後日帝国議会の承諾を求むるを要す

(国家の歳入歳出は、毎年予算を帝国議会の協賛を経なければならない
 予算の費目の額から超過したり、予算外に生じた支出がある時は、後日帝国議会の承諾を求める必要がある)

 

 

 

 

口語訳

予算は以て会計年度の為に歳出歳入を予定し、行政機関をして其の制限に準拠せしめんとする。
国家の経費に予算を設けるは財政を整理するの初歩発動たり。
而して、予算を議会に付し、其の協賛を経、及び予算に依り支費するの後、超過支出及び予算外の支出を以て議会の監督に付し、事後承諾を求めるに至っては之を立憲制の成果とするに足る者なり。

 

予算の事、大宝の令に見る所なし。
徳川氏の時各官衛に定額ありて、而して、予算なし。
維新の後、旧慣に因り、国庫又は各庁に於いて逐次出納するに止まる。
明治六年、大蔵省に於いて始めて「歳入出見込会計表」を作り太政大臣に呈出する。
我が政府の予算を以て公文とするは此れを以て始とする。
七年に又同年度の予算会計表を作り、嗣後逐年に予算の科目及び様式を改良し、十四年に会計法を頒布するに至って稍々(やや)整頓に就き、十七年に「歳入歳出予算条規」を施行し、益々成緒を見ることを得たり。
十九年に勅令を以て予算を発布す。
此れを式に依り予算を公布するの初とする。
而して、予算の制は実に会計上必要の準縄となるに至れり。
本条は更に進みて予算を議会に付するの制を取らんとする。
蓋し、予算をして正当明確ならしめ、又其の正当明確なることを公衆に証明し、及び行政官衛をして予算を遵守するの必然の義務あらしめるは之を議会に付するより最も緊切なる効力を見るに若くはなかるべし。

 

茲に弁明を要する者は各国に於いて予算を以て一の法律と認めたること是なり。
抑々、予算は単に一年に向かって行政官の遵守すべき準縄を定める者なるに過ぎず。
故に、予算は特別の性質に因り議会の協賛を要する者にして本然の法律に非ざるなり。
唯然り故に法律は以て予算の上に前定の効力を有すべく、而して、予算は以て法律を変更するの作用を為すことを得ず。
予算を以て法律を変更するは予算議定権の適当なる範囲を越える者なり。
彼の各国に於いて予算を以て法律と称えたるは、或いは予算の議定を過重して議院無限の権とするに因り、又或いは凡そ議院の議を経る者は総て法律を以て称呼するの謬を踏むに因るに過ぎず。
抑々、法律は必ず議会の議を経と謂うことを得べし。
而して、議会の議を経る者は必ず法律と名づくと謂うことを得ざるなり。
何となれば議会の承諾を経るも其の特別の一事に限り、普通に遵由せしめるの条則に非ざる者は固より法律と其の性質を殊にすればなり。

 

第二項、歳出の予算の款項〈かんこう)に超過する者あるか、又は予算の外に生じたる費用の支出をなしたるときは議会の事後承諾を求めるは政府己むを得ざるの処分に於いて仍議会の監督を要するなり。
蓋し、精確なる予算は過剰あるよりも寧ろ不足あるは往々避くべからざるの事実なり。
各大臣は予算に拘束せられて既に不要となりたる予定の政費を支出するの責を有せざるが如く己むを得ざるの必要に由り生じたる予算超過及び予算の外の支出を施行するも亦憲法の禁ずる所に非ず。
何となれば大臣の職務は、独り予算に関わる国会の協賛に由り指定せられるのみに非ずして、寧ろ至高の模範たる憲法及び法律に依り指定せられる者なればなり。
故に、憲法上の権利又は法律上の義務を履践する為に必要なる供需あるに際し、大臣は予算に不足を生じ、又は予算中に正条なきの故を以て其の政務を廃することを得ず。
而して、己むを得ざるの超過及び予算外の支出は仍適法の事たることを失わざるなり。
抑々、適法の事にして猶、事後承諾を要するは何ぞ乎。
行政の必要と立法の監督とをして両々並行互相調和せしむる所以なり。
蓋し、国家も亦一個人と同じく濫費冗出の情弊あるは免れざるの弱点たるが故に予算の議決款項を細密に履行するは、此れを以て政府の重要義務とせざることを得ず(英国千八百四十九年三月三十日の衆議院の議決に云う。国会経費の科額を決定したるときは其の経費をして其の目的の為に委任せられたる額に超過せざらしめることに注意するは、責任及び監督に当る各省の義務なりと〉。
而して、己むを得ざるの超過支出及び予算外支出あるは異例の事とし、若し議会に於いて濫費違法の情弊を発見し、其の必要なることを認めざるときは以て法律上の争議を提起することを得ざるも以て政事上の問題を媒介することを得べし。
但し、財政上政府の既に支出したる費額及び政府の為に生じたる義務に付いては其の結果を変動すること能わざるのみ。

 

予算款項の超過は議会に於いて議決せる定額を越え支出したるを謂う。
予算の外に生じたる支出とは予算に設けたる款項の外に予見せざるの事項の為に支出したるを謂う(普国検査院章程第十九条に云う。憲法第百四条に謂える予算超過とは予算に於いて各項の流用を許し、此の頃の少支出を以て彼の項の多支出を補充し得るものを除く外、第九十九条に従い既に確定したる会計予算の各款各項又は議院の承認したる特別予算の各項に違える多額の支出を謂う。予算超過及び予算外の支出の証明は翌年に両議院に提出して其の承諾を受けるべしと。此れ其の憲法第百四条の遺漏を補注し、並びに予算超過を推して予算外の支出に及ぼす者なり)。

 

(附記〉予算超過の支出は各国の会計に於いて実際の免れざる所なり。
英国千八百八十五年、収入支出監督条規として議院の議決する所に依るに毎年の決算は最後に下院の決算委員に於いて之を審査し、各科目に付き議決の金額に超過したる支費あるときは立法の認可を経べしと云えり(コックス氏に拠る。氏は又其の事実を著して云う、国会の議定費額は予算調整の当時に在りては十分余裕あるが如きも実際に欠乏を告げ、次年度に於いて不足を補給するの費目あるは少なしとせずと。蓋し、英国は事後承諾及び補充議決の両種の方法を行う者なり)。
普国は事後承諾の方法を取り、而して、憲法に之を明言せり。
伊国は半ば現年度に於ける予算修正の方法を取り、半ば事後承諾の方法を取れり(千八百六十九年の法〉。
仏国は予算に定めたる経費にして当然の理由に因り不足を生じたる者は補充費とし、予見せざる事項又は予算に定めたる事務にして既定の区域の外に拡張する者は非常費とし、補充費、非常費は皆法律を以て之を許可すべき者とし、国会閉会の場合に於いては参議院の発議に由り内閣会議を経、命令を以て仮に之を許可し、而して、其の命令は次回の国会に於いて承諾を受けるべき者としたり(千八百七十八年法)。

 
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