憲法義解〜第九条

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憲法義解〜第九条

第九条 天皇は法律を執行する為に又は公共の安寧秩序を保持し及臣民の幸福を増進する為に必要なる命令を発し又は発せしむ但し命令を以て法律を変更することを得す
(天皇は、法律を執行するため、または公共の安全や秩序を保持し、臣民の幸福を増進するために、必要な命令を発し、出させることができる。ただし、命令によって法律を変更することはできない)

 

 

 

 

口語訳

恭て按ずるに、本条は行政命令の大権を掲ぐるなり。けだし法律は必ず議会の協賛を経、而して命令は専ら天皇の裁定に出づ。命令のよって発するところの目的ニあり。
一に曰く。法律を執行する為の処分並に詳節を規程す。
ニに曰く。公共の安定秩序を保持し及臣民の幸福を増進する為の必要に於てす。
此れ皆至尊行政の大権に依り、立法の軌轍(きてつ)に由らずして一般遵由の条規を設くることを得る者なり。
けだし法律と命令とは均く臣民に遵守し義務を負はしむる者なり。
但し、法律はもって命令を変更することを得べく、命令はもって法律を変更することを得ず。
若(もし)両々相矛盾するのことあるに至れば、法律は常に命令の上に効力を有すべきなり。
命令は均く至尊の大権に由る。而してその勅裁に出て親署を経る者これを勅命とす。
その他閣省の命令は皆天皇大権の委任に由る。
本条に命令を発し又は発せしむと謂へるは、此の両般の命令を兼ねてこれを指言するなり。
前条に掲げたる緊急命令はもって法律に代はることを得。
本条に掲ぐる行政命令はもって法律の範囲の内に処分し、または法律の曠闕(こうけつ)を補充することを得るも、法律を変更し、及憲法にとくに掲げて法律を要するところの事件を規定することを得ず。
行政命令は常に用いるところにして、緊急命令は変に処する所なり。
(附記)これを欧州に参考にするに、命令の区域を論ずる者その主義一ならず。
第一に、仏国・白国(ベルギー)の憲法は命令の区域をもって専ら法律を執行するに止め、而して普国(プロイセン)の憲法亦(また)これに模倣したるは、君主行政の大権を狭局の範囲の内に制限するの謬(ご)見たることを免れず。
けだしいわゆる行政は固より法律の条則を執行するに止まらず。
何となれば、法律は普通準縄(じゅんじょう)の為にその大則を定むるの能力ありて、而して萬殊(ばんしゅ、様々な)事物の活動に対し逐一に其の権宜(けんぎ)を指示すること能はざるは、宛ても一個人の予定せる心志はもって行動の方嚮(ほうこう、方向)を指導すべしといえども、変化窮(きわま)りなきの事諸(じしょ)に順応してその機宜を愆(あやま)らざるは、また必ず臨時の思慮を要するが如し。
若行政にして法律を執行するの限閾(げんよく)に止まらしめば、国家は法律の曠闕(こうけつ)なる地に於てはその当然の職を尽すに由なからむとす。
故に命令は独り執行の作用に止まらずして、また時宜の必要に応じ、その固有の意志を発動することあるものなり。
第二に、法理を論ずる者安寧秩序を保持するをもって行政命令の唯一の目的とする者あるは、此れ亦行政の区域を定むるに適当なる釈義を欠く者なり。
けだし、古欧陸各国政府は安定を保持するをもって最大職任とし、その内治に於けるは一に苟簡(こうかん)をもって主と為したりしに、人文漸く開け、政治益々進むに及て、始めて経済及教育の方法に依り、人民の生活及知識を発達せしめ、その幸福を増進するの必要を発見するに至れり。
故に行政命令の目的は独り警察の消極手段に止まらずして、さらに一歩進め、経済上国民の生活を富殖し、教育上その知識を開発するの積極手段を取ることを務めざるべからざるなり。
ただし、行政は固より各人の法律上の自由を干(おか)すべからず。
その適当なる範囲に於て勧導扶掖(かんどうふえき)してその発達を喚起すべきなり。
行政は固より法律の既に制定せる限界を離れずして、法律を保護し、もって国家の職を当然の区域の内に尽すべきなり。

 

 

現代語訳

恭んで考えるには、本条は行政命令の大権を掲げたものである。
思うに、法律は必ず議会の協力と賛成を経て、命令はもっぱら天皇の裁定によって出される。
命令の発する目的は二つある。
一つ目は、法律を執行するための処分と詳細を規定する。
二つ目は、公共の安全や秩序を保持し、臣民の幸福を増進するために必要なことを行う。
これはすべて至尊たる天皇の行政大権によるもので、法律の規定や手続によらず、一般的に従うべき条規を設けることができる。
思うに、法律と命令は等しく臣民に尊守義務を負わせるものである。
ただし、法律は命令を変更できるが、命令は法律を変更することができない。
もし双方が矛盾することがあれば、法律は常に命令の上に効力を有するべきものである。
命令は等しく至尊たる天皇の大権による。その中でも勅裁によって出され、天皇の署名を経たものを勅令とする。
その他内閣や各省の命令は、すべて天皇大権の委任による。
本条に「命令を発し又は発せしむ」というのは、この両方の命令を合わせて指し示している。
前条に掲げた緊急命令は、法律に代わるものとすることができる。
本条に掲げる行政命令は法律の範囲内で処分し、または法律の欠けている部分を補充することができるが、法律を変更したり、憲法に法律を要するととくに掲げている事案を規定することはできない。
行政命令は常時に用いるものであり、緊急命令は非常時に用いるものである。
(附記)これをヨーロッパの制度に参考すると、命令の範囲を論ずる者の考えは一つではない。
第一に、フランス・ベルギーの憲法は、命令の範囲をもっぱら法律の執行にとどめ、そしてプロイセン憲法もまた模倣しているが、君主の行政大権を狭い範囲で制限するという誤った考えであることを免れない。
思うに、いわゆる行政は法律の条則を執行するのにとどまらない。
なぜならば、法律は普通規範として大原則を定める働きがあるが、そして様々な事物の活動に対して、逐一それに応じた処置を指示することはできないからである。
あたかも一個人の決めた志は、行動の方向性を指導すべきといえども、変化は極まりない事態に順応して、その時宜を誤らないのは、また必ずその時々の思慮を要するようなものである。
もし、行政を法律の執行という範囲に限りとどまらせると、国家は法律の欠けた部分において当然すべき職務を尽くすための手段がないことになる。
ゆえに、命令はただ法律の執行の作用にとどまらず、時宜の必要に応じて、立法とは別の固有の意思を発動することである。
第二に、安寧秩序を保持することが行政命令の唯一の目的と論じる者があるが、これは行政の範囲を定めるために適当な解釈を欠くものである。
思うに、古来のヨーロッパ各国政府は、安寧を保持することを最大の職務とし、内治においては、ひとえに一時しのぎを主としてきたのであり、人類の文明がようやく開け政治が益々進むにつれて、経済や教育の方法で、人民の生活や知識を発達させ、その幸福を増進する必要性を発見するに至った。
ゆえに行政命令の目的は、警察のみという消極的手段にとどまらず、さらに一歩進めて、経済上で国民を富殖し、教育上でその知識を開発する積極的手段を取ることを務めなければならない。
ただし、行政は元来、各人の法律上の自由を犯してはならない。
その適当な範囲で導き助け、その発達を喚起すべきである。
行政は元来、法律がすでに定めた制約を超えないように、法律を保護し、それにより国家の職責をしかるべき範囲内に尽くすべきである。

 
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