憲法改正要綱(甲案)

 

松本委員会

 

昭和二十一年一月二十六日

 

第一章 天皇

 

一 第三条に「天皇は神聖にして侵すへからす」とあるを「天皇は至尊にして侵すへからす」と改むること

 

二 第七条所定の衆議院の解散は同一事由に基つき重ねて之を命することを得さるものとすること

 

三 第八条所定の緊急勅令を発するには議院法の定むる所に依り帝国議会常置委員の諮詢を経るを要するものとすること

 

四 第九条中に「公共の安寧秩序を保持し及臣民の幸福を増進する為に必要なる命令」とあるを「行政の目的を達する為に必要なる命令」と改むること(要綱十参照)

 

五 第十一条中に「陸海軍」とあるを「軍」と改め且第十二条の規定を改め軍の編制及常備兵額は法律を以て之を定むるものとすること(要綱二十一参照)

 

六 第十三条の規定を改め戦を宣し和を講し又は法律を以て定むるを要する事項に関る条約若は国庫に重大なる負担を生すへき条約を締結するには帝国議会の協賛を経るを要するものとすること但し内外の情形に因り帝国議会の召集を待つこと能はさる緊急の必要あるときは帝国議会常置委員の諮詢を経るを以て足るものとし此の場合に於ては次の会期に於て帝国議会に報告し其の承諾を求むへきものとすること

 

七 第十五条に「天皇は爵位勲章及其の他の栄典を授与す」とあるを「天皇は栄典を授与す」と改むること

 

第二章 臣民権利義務

 

八 第二十条中に「兵役の義務」とあるを「役務に服する義務」と改むること

 

九 第二十八条の規定を改め日本臣民は安寧秩序を妨けさる限に於て信教の自由を有するものとすること

 

十 日本臣民は本章各条に掲けたる場合の外凡て法律に依るに非すして其の自由及権利を侵さるることなき旨の規定を設くること

 

十一 非常大権に関する第三十一条の規定を削除すること

 

十二 軍人の特例に関する第三十二条の規定を削除すること

 

第三章 帝国議会

 

十三 第三十三条以下に「貴族院」とあるを「参議院」と改むること

 

十四 第三十四条の規定を改め参議院は参議院法の定むる所に依り選挙又は勅任せられたる議員を以て組織するものとすること

 

十五 衆議院に於て引続き三回其の総員三分の二以上の多数を以て可決して参議院に移したる法律案は参議院の議決あると否とを問はす帝国議会の協賛を経たるものとする旨の規定を設くること

 

十六 第四十二条所定の帝国議会の会期「三箇月」を改め「三箇月以上に於て議院法の定めたる期間」とすること

 

十七 両議院の議員は各々其の院の総員三分の一以上の賛成を得て臨時会の召集を求むることを得る旨の規定を設くること

 

十八 第四十五条所定の衆議院解散後に於ける帝国議会を召集すへき期限「五箇月以内」を「三箇月以内」と改むること

 

十九 第四十八条但書の規定を改め両議院の会議を秘密会と為すは専ら其の院の決議に依るものとすること

 

二十 会期前に逮捕せられたる議員は其の院の要求あるときは会期中之を釈放すへき旨の規定を設くること

 

第四章 国務大臣及枢密顧問

 

二十一 第五十五条第一項の規定を改め国務各大臣は天皇を輔弼し一切の国務に付帝国議会に対して其の責に任するものとし且同条第二項中に軍の統帥に関る詔勅にも亦国務大臣の副署を要する旨を明記すること

 

二十二 衆議院に於て国務各大臣に対する不信任を議決したるときは解散ありたる場合を除く外其の職に留ることを得さる旨の規定を設くること(要綱二参照)

 

二十三 国務各大臣を以て内閣を組織する旨及内閣の官制は法律を以て之を定むる旨の規定を設くること

 

二十四 枢密院の官制は法律を以て之を定むる旨の規定を設くること

 

第五章 司法

 

二十五 第六十一条の規定を改め行政事件に関る訴訟は別に法律の定むる所に依り司法裁判所の管轄に属するものとすること

 

第六章 会計

 

二十六 参議院は衆議院の議決したる予算に付増額の修正を為すことを得さる旨の規定を設くること

 

二十七 第六十六条の規定を改め皇室経費中其の内廷の経費に限り定額に依り毎年国庫より之を支出し増額を要する場合を除く外帝国議会の協賛を要せさるものとすること

 

二十八 第六十七条の規定を改め憲法上の大権に基つける既定の歳出は政府の同意なくして帝国議会之を廃除し又は削減することを得るものとすること

 

二十九 予備費を以て予算の外に生したる必要の費用に充つるとき及予備費外に於て避くへからさる予算の不足を補ふ為に又は予算の外に生したる必要の費用に充つる為に支出を為すときは帝国議会常置委員の諮詢を得へき旨の規定を設くること

 

三十 第七十条所定の財政上の緊急処分を為すには帝国議会常置委員の諮詢を経るを要するものとすること

 

三十一 第七十一条の規定を改め予算不成立の場合には政府は会計法の定むる所に依り暫定予算を作成し予算成立に至るまての間之を施行すへきものとし此の場合に於ては会計年度開始後に於て其の年度の予算と共に暫定予算を帝国議会に提出し其の承諾を求むるを要するものとすること

 

第七章 補則

 

三十二 両議院の議員は各々其の院の総員三分の一以上の賛成を得て憲法改正の議案を発議することを得る旨の規定を設くること

 

三十三 天皇は帝国議会の議決したる憲法改正を裁可し其の公布及執行を命する旨の規定を設くること

 

三十四 憲法及皇室典範変更の制限に関する第七十五条の規定を削除すること

 

三十五 以上憲法改正の各規定の施行に関し必要なる規定を設くること

 
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