これまでの日銀総裁人事は、改正日本銀行法が施行された平成10(1998)年4月1日以前であれば、日銀出身者と旧大蔵省出身者が交互に総裁に就任する、いわゆる「たすき掛け人事」を行っていました。戦後になって14名が日銀総裁に就任しており、その内8名が日銀出身者、5名が財務省(旧大蔵省)出身者、1名がどちらの出身者でもありません。
日銀出身者の場合、日銀に入行し、日銀理事まで経験した人が副総裁を経て総裁になります。とくに日銀企画局(総務局)が花形であり、金融政策に関する部署です。企画局の主軸ラインが、政策企画課長、企画局長、企画局担当理事となります。歴代日銀総裁の中で企画担当理事を担当した年数は、三重野康氏が4年、福井俊彦氏が5年、白川方明氏が4年と、通例1~2年から考えるとその倍以上は担当しています。今回の候補者である2名は、中曽宏氏が2年8ヶ月、雨宮正佳氏が通算7年です。
財務省出身者は、財務事務次官経験者であり、その中でも「大物次官」とされる人が就任しています。大物次官とは、通例1年任期を2年以上の任期で担当した人のことです。ただし日銀総裁人事における例外が現在の黒田東彦氏であり、財務事務次官ではなく財務官経験者となります。日銀総裁人事は、「大蔵元老院」と呼ばれる財務省OBや、現役の財務事務次官などが関わるため、異例だった財務官経験者が日銀総裁になる可能性は狭まるといえるでしょう。
副総裁になる可能性がある「大物次官」経験者は、細川興一氏、勝栄二郎氏、岡本薫明氏であり、1年任期ではあるものの消費税8%増税を実現させた木下康司氏も加わった4名です。この内、細川興一氏と勝栄二郎氏は5年任期を全うした後の日銀総裁が高齢になることから外れる可能性があります。その場合、岡本薫明氏と木下康司氏に絞られます。
なお可能性は低い財務官経験者であれば、黒田東彦氏の流れを汲んだ人物として、アジア開発銀行総裁に就任した中尾武彦氏と現在の総裁である浅川雅嗣氏になるでしょう。
どちらにせよ、令和5(2023)年3月は日銀の金融政策が転換するターニングポイントになる可能性が高く、岸田内閣が本当に日本の経済を回復させたいと望むか望まないかの試金石になるのが、日銀正副総裁人事になります。
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令和5(2023)年1月1日公開